2011年2月11日金曜日

北区つかこうへい劇団の解散について

(エッセイ)
http://www.tsuka.co.jp/kaisan.html
2011年7月に北区つかこうへい劇団が解散する。


僕は、このことは保留すべき点もあるが憂慮すべきだと思う。今日、助成金制度の発達やアートマネジメント分野の発達が見られる一方で、こうした自体がおきてしまうことは、アートマネジメントの力不足を感じさせられるし、本当はもっと考えるべきことが他にあるんじゃないのか、という怒りの気持ちに駆られる。

これは、怒りだ。文化を失ったことに対する悲しみだ。
文化の破壊は、直接的暴力とは違って目に見えづらいけれど、行われる。この暴力に対して毅然と文化的生活を営む権利を主張する必要があるだろう。それは業界関係者だけでなく、一人の国民としても、だ。

都内だけに限って言えば、アートによって地域を活性化させたり、イメージアップをさせたりする文化行政は税収を増やすために必要なはずだ。
特に足立区や北区のような元工業地は、工業用地の地方移転に伴って、住宅地に移行する必要がある。住みやすい地域を作るために、劇場を作ったり、図書館を作ったり、文化活動を支援するべきなのである。

北区もまた、住宅地化の一途を辿る都内の地域であり、「きたくなるまち」を目指していた。
演劇を助成している筆頭の地区といえば、世田谷区と杉並区だが、成城学園前(世田谷)や浜田山(杉並)という高級住宅地を持っていることを想起させる。

家族そろって住める町を目指すことが、地区の発展にとって重要な段階のはずだ。

北区つかこうへい劇団には、優秀な俳優やスタッフなど、上手く活用すれば演劇文化を上手く定着させることができる人材がそろっている。それを年間予算で確保できるのであれば、安いものだと思う。僕が文化行政において誤りだと感じるのは、建築物を建てて公共施設の充実を図ることが文化的生活を向上させることだと考えている点だ。

文化的生活は、心の営みなのだから、その活動自体が重要であり、人と人のつながりこそが大切である。
ペーター・ゲスナーのせんがわ劇場のような小さい予算でも、十分に文化活動は可能なのであって、拠点を持つこと、予算を多額に投入することが文化活動の支援につながるわけではない。重要なことは、そこに長く住んでもらい、多くの人と触れ合ってもらうことで、権威を高めることではない。

北区つかこうへい劇団は、その意味でポテンシャルの高いカンパニーだった。また、北区における演劇文化は、プロではないものの、アマチュア劇団が多数存在するという稀有な地区なために、本当の意味での「地域とアート」が実現可能な街だった。

このポテンシャルを活用できなかった北区にも非難すべき点があるし、それを押し出さなかった北区つかこうへい劇団も悪い。
いまさら何を言うのか、と読んでいる人には思われるかもしれないが、僕は以前からずっとこの主張を繰り返していたし、業界関係者(といっても、相談をしたのはごく少数だが)が耳を貸さなかっただけのことである。

繰り返し言うようだが、文化活動の支援は、拠点ではなく、人が重要である。
北区は、それを放棄した。これは北区民にとって、文化的生活の剥奪である。

ただ、僕は内部の事情も知っているので、単にこの事例がアートマネジメントの敗北を意味しているとは思っていない。

実際に、北区つかこうへい劇団は、予算を圧迫するだけの多額の補助を受けていたし、つかこうへい死後の「北区つかこうへい劇団」は、北区が本来擁護してきた意味を持ち合わせていない。その意味では、解散は妥当な選択だったとも言える。

北区は、「北区つかこうへい劇団」を、悪い言葉だが、看板として受け入れた。しかし、本人が死んでしまったら、看板にも何にもならない。補助をカットして、当然である。

ここには、劇団側の落ち度があるように思う。こまばアゴラ劇場のような劇場が拠点形成事業助成を得たような動きが見られ始めてから、公的補助をいかに取るべきか、という「戦略」が演劇にも必要なことは明らかになった。

北区の補助に安寧としていて、こうした動向に注意を払わなかった劇団側にも落ち度がある。どこかで、北区との関係を見直すべきタイミングがあったのかもしれない。今更それを追求する意味はないわけだが、今後の活動方針を立てる上で、是非ともアートマネジメントを学んでほしいと思う。

最後に。

僕は、高校が北区にある学校で、よく「北区つかこうへい劇団」の研修公演などを見に行っていた。また、先輩の中には「北区」を受ける人もいた。

僕にとってつかこうへいは、紀伊国屋ホールでのつかこうへいではなく、あの小さいホールでのつかこうへいだった。

つかこうへいは、商業演劇の担い手だが、後期には公的補助の下で活動する。そのことは、西堂行人氏によっても忘れ去られ、ほとんど演劇関係者の耳には入っていないんじゃないかと思う。

しかし、北区つかこうへい劇団は、地区の演劇祭や演劇教室など、しっかりと地域に文化を提供していた。
このことは、決して忘れてはならず、こうした草の根活動こそ、文化にとって重要な根幹であり、文化的生活の豊かさを生み出してくれるものである。

公的機関にとっても、劇団にとっても、また観客にとっても「文化を保護する」という気持ちを持ってもらいたい。そして、演劇が文化的生活を満たしてくれることを、僕は信じたい。